音とひとつ
重鎮が何人もいることで知られるベルリンのテクノ界。重鎮を分かりやすく大別するとムキムキ系、ヒョロリ系、ヘビー系になるわけですけど、そのムキムキ系とヘビー系の間に鎮座するDJ、Marcel Fenglerが都内でやると知って、日頃からお世話になっているTobiさんからご招待いただいて行ってきました。
場所は青山VENT。今回初めて行ったんですが、コンクリート打ちっ放しだったり大理石?みたいなストーンのミニマルな内装がさっぱりした空間。独立したバースペースとメインフロア、メインフロア脇にはオリーブらしき木が植えられた休憩スペースもあり、構造的にもいい感じでした。
Marcel Fenglerを初めて知ったのは確か5年以上前、Chris Leabingが主催するCLR Podcastでミックスを聴いたのがキッカケでした。
ベルリンにある世界的に知られるクラブ『Berghain』でレギュラーを務めるDJとして紹介され、その頃にはすでにキャリアも十分あったと思うんですけど失礼ながら知らなくて、ベルリンテクノらしい、ストイックで硬派なミニマルサウンドで構築していくスタイルがハマったのを覚えています。
テクノって一般的にはきっとシンセサイザーのキュンキュンした派手な音で盛り上げるEDMみたいなイメージがあるかと思うのですけど、ベルリンテクノってそういう感じじゃなくて、まず音数が少ないんです。
で、EDMみたいなパーティーいえーいっていう系統の音を軟派と表現するとその対極にくる音として、硬派な音と表現されます。
テクノは好きだけどEDMの音っていうかシンセがギュンギュンする音は(TB303とか909を除く)苦手なので、Berghainに代表されるベルリンの音はすごく好きなんですね。
それでMarcel DetmannとかLucyとかがやってるCLR Podcastが好きなんですが、Marcel Fenglerはその後来日してDOMMUNEでライブやってたのを見て、やっぱりいい音だなと思っていつかライブで聴きたいとようになりました。
それが今回まさかの来日とは知らず、しかも表参道でやるとは、友人もDJとして参加してるとはっていう3つの驚きとともに初ライブ体験。
1時前にVENTに入ってTobiさんのDJを聴いて、初めて聴くTobiさんの硬派な音を堪能してからメインフロアあたりでお喋りしてして、ちょっとメインの音でも聴いてようかなと思ったら。
あれ?あの強面の中肉中背の人、あれ?本人じゃない?絵?もうやるの?
まさかの1:30スタート。
海外からのメインDJって2時とか3時からスタートするケースが多いんです。3時から5時が何となくよくあるパターンだと思ってたので、1:30に始めるとは思いませんでした。
オープニングはMarcel Fenglerらしさ溢れる浮遊系のノービートな曲で始まって、そこからズンと響くベルリンサウンドが炸裂。控えめのハイハットと対照的に幾重にも重なって押し寄せるベースとキックの音がフロアに放たれ、身体を貫いていく音に身を任せてひたすら踊ってました。踊って、水を飲んで、踊って。
久しぶりにDJと向き合って、音を介したコミュニケーションを堪能してきちゃいました。
音って言葉よりもアブストラクトで、言外のコミュニケーションが可能になると思うんですよ。
言葉って物事を固定化されたイメージに落とし込むツールだと思ってるんですけど、音ってもっと直接的に感情を刺激するじゃないですか。
血湧き肉躍るって言いますが、まさにそれは言い得てると思うのです。血が湧く、肉が踊る。
そしてDJって見た目には分かりにくいけど、すごい考えてプレイするんです。全員がそうではないけど。
先にある程度構成を考えて、セットを組んで、フロアの反応を見ながら限られた音源の中でベストと思える一手を次々に繰り出す。その反応を見て、インタラクティブに音を組み立ててるんです。
だから、思考と感覚を両方使うんです。
でもたまにそれがね、感覚だけになる時があるんです。
DJやっててたまーに、フロアの状態が感覚的に分かるようになって、流れというかうねりというか、雰囲気かな、それと頭がつながる感覚になることがあるんです。
そうするとね、次の選曲を考えなくても良くなって、自然と曲を選ぶようになる。選ぶというより、選ばされている感覚。次はこれなのかと、思考が後から着いてくる感覚。そうなることはものすごく稀ですが、その感覚に「入った」時ってもうね、音とひとつになるんです。
またいつか、その感覚になれたらいいな。